相続のよくあるトラブル

長男が遺産をすべて相続しようとしている

かつては長子相続、家督相続などとして長男がすべてを相続することが多くみられました。今でも、地方では、家系を重視して長男に多く相続させることもあります。

しかし、現在の民法の兄弟姉妹の法定相続分は平等です。亡くなった方が、遺言書を残しておかない限り、法定相続分で相続することになりますから、長男だけ特別扱いということにはなりません。

従って、長男にすべてを相続させるという遺言がない限り、長男がすべてを相続することはできません。

また、長男にすべてを相続させるという遺言があったとしても、他の相続人は、遺留分を主張できます。

長男にすべてを相続させるという遺言がない場合は、まず、遺産分割協議を、それがまとまらないときは家庭裁判所で調停を、調停でもまとまらないときは、審判(家庭裁判所での訴訟)をすることになります。

長男にすべてを相続させるという遺言がある場合、まず、遺留分に関する協議を、それがまとまらないときは家庭裁判所で調停を、調停でもまとまらないときは、遺留分侵害額請求の訴訟をすることになります。

亡くなった父は生命保険をかけていた。相続人は母、兄、私の3人。生命保険金はどうなるのか。

生命保険金が遺産に含まれるかどうか、いろいろな解説されていますが、遺産に含まれないと考えて下さい。

受取人が指定されている場合

  1. 受取人として「兄」というように特定の人が指定されている場合
  2. 受取人が「被保険者」として、亡くなった人が指定されている場合
  3. 受取人が「相続人」として、相続人全員が指定されている場合


のいずれも遺産には含まれないと考えて下さい。
受取人が「被保険者」あるいは「相続人」としてある場合は遺産に含まれると解説されている場合もあり、そのような考え方もありますが、現在の判例では遺産とされていないと考えて下さい。

受取人が指定されていない場合

この場合は保険契約の約款に従うことになります。約款に「指定のないときは相続人に支払う」と規定されている場合は、「相続人」と指定されている場合と同じことになり、約款に「配偶者を第一順位の受取人とする」との規定があれば、「妻」というように特定の人が指定されている場合と同じになりますので、結局、遺産には含まれないと考えて下さい。

どうやって分配するのか

受取人が「被保険者」「相続人」としてある場合、または指定されていないが、約款で「相続人」と規定されている場合は、民法の規定に従って、生命保険金を法定相続分の割合で分配することになります。受取人として特定の相続人が指定してある場合、または指定されていないが約款で「配偶者を第一順位の受取人とする」と規定されているなどの場合は、その人だけが受領することになります。

特定の者だけが受領するのは不公平ではないか

確かに不公平だとの考え方もあります。この点、最高裁は、「生命保険金を受け取ることで、共同相続人間において著しい不公平が生じる場合には、事案に応じて、特別受益(遺産に含める)とする」としています。ですから、場合によっては、1人だけが得することにならない可能性もあります。

遺産分割したいが、相続人の1人の母が認知症である。

この場合、認知症の程度にもよりますが、通常、母に成年後見人を付ける必要があります。

そのため家庭裁判所に、成年後見人の選任の申立をすることになります。

遺産分割協議、遺産分割の調停、審判には、この成年後見人が参加をすることになります。

相続人の中に未成年者がいる場合

未成年者は、自分自身で遺産分割協議をすることはできないとされています。親権者が代わって遺産分割協議をすることになります。

しかし、親権者も相続人である場合は、未成年者と利益が対立すると法律は考えます。

従って、親権者も相続人である場合は、面倒でも、家庭裁判所に、未成年者の特別代理人を選任する申立をして下さい。

そして、遺産分割協議、遺産分割の調停、審判には、この特別代理人が参加をすることになります。

相続人の1人が、被相続人の生前、被相続人の預金を引き出して使用していた場合

被相続人が承諾していた場合は贈与として特別受益の問題になります。引き出した分も遺産として考え、仮の法定相続分を計算して、引き出して使用した相続人は、その仮の法定相続分から、既に引き出した分を引いた額だけ相続することになります。

既に引き出した分が仮の法定相続分が多い場合は、引き出して使用した相続人の相続額は0円になります。更に、マイナスになった分を他の相続人に渡す必要はありません。

被相続人が承諾していなかった場合は、不法行為あるいは不当利得の問題になります。他の相続人は、自分の相続分の額について、引き出して使用した相続人に対して返還を求めることができます。返還に応じない場合は、不法行為に基づく損害賠償請求あるいは不当利得に基づく返還請求の訴訟をすることになります。

相続人の1人に相続させたくないが、どうしたら良いか。

遺言で、その相続人には相続させないという内容を作成しても良いですが、この場合は、その相続人は遺留分を有することになり、遺産の一部は取得する可能性があります。

そこで、全く相続させたくない場合は、生前に、その相続人を相続人から廃除する旨の調停を申し立てるか、遺言で、その相続人を相続人から廃除する旨を記載することになります。

もっとも、相続人から廃除するためには、「被相続人に虐待をし、もしくは重大な侮辱を加えた」とか「その他の著しい非行があった」などの事情が必要です。

なお、法定相続人が相続に関して不正な利益を得ようとして不正な行為をし、またはしようとした場合に、そのような法定相続人は、法律上当然に、相続人としての資格を失います。これを相続欠格と言います。

ただ、相続人廃除・相続欠格の場合、いずれも、子どもがいれば、その子どもが代襲相続することになります。

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